生きるとは何か - No.25ー12.(168)

生きることは奇跡

2025/12/1発行

誰でも唯一の存在

最近になり強く感じるのは、全ての人は唯一無二の存在であり、性格、感性はまったく異なっていることです。日常では意識しませんが、人と話していても受け取り方に違いがあり、正しく理解が得られることは難しいと思います。兄弟姉妹でも、長年連れ添った夫婦でも、よくもこれだけ価値観や物の見方が違うものだと感じます。他人様には話がなかなか通じなくて当たり前です。生まれも、育った環境の、受けた教育も全て違うのですから、普段はお互いに通じ合っていると錯覚しているだけです。

自然が生み出した摂理に話を戻せば、私たちは生まれるときに、異なるように遺伝子がセットされています。遺伝子については拙書「生きるとは―もう一人の自分探し(1)の第三章:「私たちの先祖」に「遺伝子とは」と見出しをして詳細を書きました、ご参照ください。その中にまとめになる言葉がありますので以下に再録します。

・母親と父親がそれぞれ卵と精子(生殖細胞)を作る時、減数分裂という非常に興味深いことが起きています。祖父母それぞれから来た染色体が対同士で一度混ざり合い、そして再び分かれます。
こうして生じた染色体は、母親、父親の体細胞にある染色体と同じではありません。ある部分は祖父由来、ある部分は祖母由来という、一本一本の染色体の中で祖父母のDNAが混ざり合ったものが私に受け継がれる(おじいさん似、おばあさん似が生まれる所以です)。
…… 祖父と祖母という別の個体に由来する染色体が混ざり合ってできた新しい染色体を23本持つ卵と精子ができて、それがまた組み合わされて生まれた私は、これまで存在してきた個体のどれとも違う唯一無二のゲノムを持つことになります。同じ両親から生まれても兄弟姉妹のゲノムが違うのはこのためです。…… どれが祖父由来でどれが祖母由来かは偶然決まるので、23本の染色体の組み合わせには二の二十三乗の可能性がうまれます。
つまりあなたが存在することによって、「両親から受け継ぎながらも、全く新しいもの」を次に伝えることができるのです。あなたは生命をつないでいく鎖の一つの輪ですが、この輪は必ず新しいものを創って次へとつながるという特徴があります。

2,500年前にブッタが見いだした真理は、仏典の中に天上天下唯我独尊という言葉で伝わっています。現在は誤解されて、自己中心で独善的な人と捉えられることもあります。しかし、真逆で、宇宙の中で、人はかけがいのない唯一無二の尊厳をもつ存在であるとの意味で述べられているのです。科学的に解明されていない時代に、遺伝子の本質を捉えていたかのように本質を見抜いていることに驚きを感じます。

法句経(ダンマパダ)182に下記の言葉があります。

人間に生まれることは難しい
また生きることも難しい
真理を聴く機会も得難い
ブッタの出現は未曾有のこと 

スマナサーラ長老の解説書(2)から要約して示します。

・広大な生命の世界で、人間とはどれくらい少ないかを考えると、その事実が明確にわかるのです。虫の世界には、人間の数とは比べられないほどの無数の生命がいます。地球上の生命を数えても、人間に生まれる可能性は本当に少ない。ある一つの瞬間で、もう何万、何億、何兆という生命が死んでいる。死ぬ生命は次に生まれる場所を探すのですが、人間の世界にはその場所がないのです。…… 私たちは貴重なチャンスに恵まれたのですからこのかけがいのないチャンスを活かさないなんてもったいない、とは思いませんか。

世の中の風潮に流されて生きるのではなく、しっかりと人生は何かを考えるべきです。いかに生きればいいのかっと観察して生きなければならないのです。ブッダは「生まれたものの目的とは、解脱することである」とはっきり述べられています。解脱とすることが現代人に理解できないならば、少なくとも人格向上をめざすべきでしょう。

人間に生まれることはまれである。その中で真理を知ろうとする人は、もっとまれな存在である。それよりさらにまれで難しいのは、ブッダが現れることなのです。ブッダは、だれも真理を知らない世界にあって、自分一人で真理を発見された方なのです。

今、そのブッダが現れた時代なのです。ブッダは亡くなりましたが、ブッダの教えが生きている時代なのです。しかも自分は人間に生まれました。だから真理を見つけるならば、今、この瞬間のチャンスだけだ、ということです。この瞬間、自分にとって一番大切なことは何かを知って、必死に頑張るのです。それは「こころを清らかにする」ことなのです。

短い仏典の言葉に、長老の解説によって深い意味が込められていることが解ります。現在の科学で解き明かされた事実と合わせて人間としての存在の意味を知ることができます。

 全ては宇宙の流れ

地上には、様々な生命が存在しています。広大な宇宙の中で地球が46億年前に誕生してから、生命が生まれたのは約38億年前とされています。有力な説としては海底の熱水噴出口の熱水循環の中で生成したといわれ、生命はこの地球上では、条件が揃えば自然の循環の中で誕生します。長い地球の歴史を見れば、大きな環境変化が繰り返され、その時の環境に対応出来た生命だけが命を伝えています。
人間もその中の一つの生命で、現代人の祖と言われるホモサピエンスは僅か30万年前にアフリカで誕生し、約10万年前から世界各地に拡散しています。
ブッダが真理を見いだした紀元前5世紀前後は、人類の精神的覚醒がなされた枢軸の時代とも言われ、中国では孔子・老子・荘子など儒家、道家、法家などの多様な思想が生まれています。西洋ではソクラテス、プラトン、アリストテレスなどが哲学を体系化し、民主制や理性の探究がなされています。これら聡明な頭脳が生まれたのに、 不思議なことにお互いの交流がなかったことです。ほぼ同時代に彼らの活動は「人間の生き方」を思索し、現代まで影響を与え続けています。これも現人類ホモサピエンスとしての脳発達が地域に関係なく自然の作用として進化したのであり、人間の意思や思惑は一切関係することはなく、生み出された結果ではないでしょうか。

図は(1)の資料から表示しました。生命科学者の中村桂子氏が生命の38億年の時間を進化した生命誌絵巻として描がいています。絵の扇の左端に人類が現れています。

絵の上のコメントは高田達雄氏が書き入れた注釈です。人類は3000万種の生命体と共生していますが、近代化の240年は38億年を1年とすると2秒です。非常に短時間で人類は地球環境を急激に劣化させています。

現実に戻って世界を見ると、地球上には80億人もの人が存在し、自然を破壊して都市を築き、資源を浪費することが文明の発展であると思っています。最近では、著しい工業化の進展が、地球温暖化を促進したことで、自然災害が多発したと騒いでいるのが現在の人類です。一方、強国が他国を併合しようとする領土拡張の野心は止めどもなく、戦争をして多くの庶民や戦闘員の命が亡くなることの反省もなく、絶えることなく続いています。本来、生き方を示し、こころの安寧を願うはずの宗教が、対立を生み出す原因にもなって、その思想は、いがみ合いの激しさを増幅しています。

人間社会の混迷

人類は脳が発達し、言葉や文字を生み出して、知識を蓄積し、情報を交換することで、素晴らしい文化・文明を築いてきました。知識の蓄積は物理学理論を深化して、宇宙の存在や素粒子の発見を導き、人類の存在も解き明かしました。一方、ダイナマイトがアルフレッド・ノーベルにより1867年に発明され、産業・工業の発展に大きな貢献をしました。反面、強力な爆薬として戦争に使用され、人類の戦争を激しいものとして、沢山の生命が失われています。皮肉にも、ノーベル賞は人類の進歩と平和に貢献した人に贈られる最高の賞となっています。
その後、原子爆弾の発明で、日本は最初の被爆国になりました。世界には原子爆弾が大量に保有され、お互いに脅しとして使っていますが、一旦、戦争に使われたら人類を破滅に導く危険性を孕んでいます。

この様に見てきますと、現状の世界情勢は、人類破滅の方向に向かっています。ブレーキを踏んでくれるのは誰なのか、見当たらない状況です。
人類がこの地上に、生きることは奇跡です。

参考文献

(1)後藤一敏「生きるとは、もう一人の自分探し」(銀の鈴社、2023)

(2)A・スマナサーラ「原訳「法句経」一日一悟」(俊成出版社、2005)

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