生きるとは何か - No.21-7

身体は自然だ

2021年7月1日発行

コロナ禍の中で、オリンピックを開催することに反対する人と賛成する人とに大きく意見が分かれています。反対する人は、街の人流が増えれば、感染リスクが上がり、急速な感染拡大が起きることを心配しています。一方、オリンピック関係者や政府は国際的な関係の中で、今更中止はできない状況に追い込まれています。どちらの側に立つにしても、そのためには、急速にワクチン接種を進めて、なんとか感染拡大にブレーキを掛けたい一心で日本国中が動き出しています。

人間世界に大騒ぎをさせているのは、顕微鏡でも見えない0.1ミクロンサイズ(μm)のコロナウイルスと人間の細胞(3~40ミクロン)とのせめぎ合いです。私たちの身体の中で大戦争が起こっているのです。「私」という個人はただオロオロしながら戦況を見守るしかありません。

ウイルス感染症に悩まされてきた人類

日本の感染症事例では、古の奈良の都で深刻な感染症がありました。現在の奈良東大寺の二月堂のお水取りは、春を告げる伝統的な行事で、1200年以上休むことなく続けられている奈良の観光イベントです。2021年5月30日にNHKスペシャルで疫病退散千三百年の祈り~お水取り・東大寺修二会の様子が放映されていました。

そこでは、次のような説明がされていました。

奈良時代、修二会が始まるおよそ15年前、天然痘が日本を襲った。流行は九州から始まり、平城京にもまん延。貴族から庶民まで次々に命を奪った。この疫病で人口のおよそ3割が犠牲になったと推定されている。…

1989年、平城宮の近くで発掘された大量の皿。なぜか そのほとんどに黒いすすが付着していた。

「これは、黒いすすのついた灯明皿(とうみょうざら)です。千に近い数の灯明皿が出ています。疫病が二度と起こらないようにと、祈ったものではないかと考えています」と奈良文化財研究所の方の見解が語られています。

行事を主宰する練行衆 処世界の僧侶は次のように述べています、

「1日も早く(新型コロナ禍が)なんとかなってほしいという気持ちで、観音様にお願いするしかない。必死に祈ることが、結果として良い果報をもたらしてくれると信じてやるしかない」

また、練行衆 大導師の方は

「何か起こった時に、その原因は何かわからないけれども、人間がいろんなことをした結果で起こっているとしたら、それを懺悔しましょうと。平たく言えば、観音様すいません。申し訳ありませんでした。ということを通してコロナウイルスに限らずいろんなことが解消されることを願う」と語ります。

そのための懺悔の苦行がある。毎日6回行われる五体投地(ごたいとうち)だ。五体投地とは全身を投げ出して仏を拝むこと。東大寺では板に自らの体を打ちつけ、観音菩薩に祈る。

先ほどの練行衆 処世界の僧侶の方が観音様に祈る様子は激しいもので

「観音様のことだけを考えて打つ。振動は脳天まで伝わるような感じで、全身がしびれる。呼吸も苦しくなる。自分自身の至らなさを悔い、必死に懺悔をする。そして世の中のいろいろな災禍も合わせて今悔いますと。念じて感じて思って、打って、しびれて、段々と意識がもうろうとしてくることもある」と語っています。

このような全身全霊を込め、ドーンと床に打ち付ける激しい音を立てて五体投地をしている様子が映像にありました。

現代科学の発達した今は、このような儀式をしてもコロナ感染が終息することはないと誰でも知っています。しかし、東大寺のお水取りも伝統を伝える文化的な行事にまで昇華されたと見ると、ただ単に、馬鹿馬鹿しい疫病退散の加持祈祷とは思えなくなります。

疫病の原因が、目には見えない極微のコロナウイルスであり、飛沫や接触で感染することが判明されています。しかし、もとはと言えば、人の行動に原因があります。

奈良時代以降も度々コレラなどの伝染病に見舞われています。江戸時代末期に流行したコレラでは緒方洪庵やオランダ医師らの治療がある程度の効果を見せたので「身体と衣服を清潔に保つ」「室内の空気循環を良くする」「適度な運動と節度ある食生活」などが推奨されていたようです。人との接触を避け、換気をよくして、外出を抑えるなどをして感染の流行をやり過ごすのは、現在と同様な予防策です。ワクチンのない当時としては、流行が収まることを祈るしかなかったことでしょう。

ミクロの視点で真実の自然が見える

化粧をして衣服で包まれた身体は、「私」という自分の姿を変わらない実体として捉えています。鏡の前に立つと、しわが増えた顔や薄くなった髪の毛を見て変化している「私」に気づくことはできます。日常生活の中では、私たちの感覚は、秒単位の変化は感じることはできません。仏教で言う、この世に存在するあらゆるものは、留まることもなく、常に変化している無常の姿であるとは知る由もありません。

視点を変えて身体を見ると、最初に気づくのは呼吸です。呼吸が少しでも止まると苦しくなり、数分で危険な状態になります。それはなぜか、空気を吸い込み酸素を取り入れないと、身体活動に必要なエネルギーが補給できなくなるからです。

細胞は極微の世界

生きている身体は、60兆個あると言われている細胞で構成されています。この細胞は生命活動に必要な一切合切の要素を収納した最小の単位で、多くの小器官から構成されています。細胞の分かり易いイラストがありましたので紹介します。

山科正平著「新 細胞を読む」(ブルーバックス、講談社、2009)に細胞の全景を分かり易くするためにイラストで示されています。


細胞のイラスト(35頁)

イラストの文字が小さく見にくいので、細胞の簡単な説明を引用します。

・細胞全体は細胞膜で包まれている。だから、細胞からの突出物である線毛や微絨毛(びじゅうもう)もその表面は細胞膜に包まれている。また、細胞が隣の細胞と接触するなら、それは細胞膜による接着であるはずだ。細胞膜で包まれたその中を細胞質というが、そこでまず目につくのが核である。核の境界はどうなっているだろう? 核膜で包まれているのだが、その本体は粗面小胞体だ。細胞質に存在する色々な小器官も膜で包まれているのが多い。粗面および滑面小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ装置、リソソーム、ペルオキシソームで、これらは膜性小器官と総括される。 (34頁)

このような精巧な小器官がびっしりと入っている、眼には見えない極微の細胞が、私たちの身体を構成している自然の巧みさに感動を覚えます。

 エネルギーを作るミトコンドリア

ミトコンドリアは呼吸で取り込んだ酸素を利用してエネルギー物質(ATP)を産生しています。ATPを合成するためには、食物として取り込んだ炭水化物や脂肪といった栄養素と、それを酸化するために肺から吸い込んだ酸素が必須の要素となっているとのことです。

・私たちのからだは常に活動している。細胞は運動や収縮ばかりでなく、細胞内の物質の濃度を外液とは異なった濃度に維持するためにも、大量のエネルギーを消費している。…

細胞ではATPが唯一の燃料で、このATPを作るのがミトコンドリアの最大の仕事だ。そのため、ミトコンドリアは細胞の中の発電機と考えていただくのが明快だ。筋肉や神経のように活動性の高い細胞には、特に多数のミトコンドリアが存在し、エネルギーの産生に当たっている。そればかりか、細胞膜直下や鞭毛の根部など、エネルギーの消費が激しい部域には必ずミトコンドリアが集積している。(73頁)

・今を遡上すること10億年の昔、単純な真核細胞の中に取り込まれた細菌のような細胞が、そのまま宿主の細胞内に寄生したのがミトコンドリアの起源とされている。ミトコンドリアを寄生させた宿主細胞は、ATPという極めてパワフルなエネルギーの確保に成功したため、地球の支配者として発展する道が保証されたわけだ。… それでは、ミトコンドリアは自らのからだをすべて作りあげるだけの遺伝子を保持しているのか? というとそうではない。ヒト細胞のミトコンドリアには、13種のタンパクをコードする遺伝子と22種のRNAの遺伝子しかなく、これだけでミトコンドリアの全身はできない。そのため、核のDNAの応援が必要である。(76頁)

細胞内にあるミトコンドリアという一つの小器官を取り上げても、素晴らしい働きと、長い遍歴によって細胞に定住し、全身の活動を支援するエネルギー供給を担っています。たった一つの受精卵が分裂を繰り返しながら、骨格や臓器などの各器官を作り、それらが機能分担して働く、60兆個の細胞集団が身体です。「私」という意識とはまったく関係なく、自然がなし得たことです。

さらに調べて見ると、ヒトの体には約260種類の細胞があり、胃や腸の表面にある上皮細胞は寿命が1日程度で、血液中の赤血球の寿命は約4カ月だそうです。精巧で複雑な細胞が、働く場所によっては毎日作り替えられているとは驚きです。そのエネルギーだけでも大変な量が必要とされるわけで、呼吸は止めることはできません。生きている限り、疲れたから今日は一休みということはあり得ないのです。「身体は自然だ」ということに気づいてもらえたでしょうか。

次の大きな問題は、「私」とは何か、そもそも身体の中に存在しているのかと思うでしょう。私という自我意識や思いを生み出しているのは、身体の五感(眼,耳、鼻、舌、身)からの情報を受け取り、識別している脳の働きから生まれます。身体と心は一体で、心が身体を動かし、私たちの生活が成り立っています。心の理解には、ブッダの教えを学ぶと答えてくれます。心を制御して、正しい行いをし、人格を向上させることが、社会や家庭の幸福につながります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

コメントを残す

*